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反乱分子アニィは何故シオを支配する術を解いたのか。
それもミルの説明ではっきり解明した。
シオには、アニィと同じロマの民の血が流れている。
宮廷内でもそれを知る者は限られているが、忌み嫌われ、散々叩かれ、それでも皇室に逆らうことは許されなかった。
シオはその中をうまく泳いで生きてきた。
「統括は俺の素性を知った。だから、俺が帝国を裏切れるようアニィちゃんを使って術を解き、懐柔しようと使者を寄越したのか。
表向きは捕虜解放の要求だったけど、真の目的は統括と俺を引き合わせることだったんだね」
やはり、好意でアニィが術を解いてくれたわけではなかった。
分かってはいたが、思わずそこで落胆の吐息が漏れる。
私情を押し殺しながら、シオは政を司る者として意見を述べた。
「俺を縛る術は確かに解けた。けど、反乱分子に寝返って帝国を滅ぼす気は欠片もないよ」
だが。
「そうだな。統括が話の分かる人間なら、共存を考えてもいい」
病室のベッドで再び寝返りを打つと、シオは窓際に立つミルを見やった。
ミルもシオに向かって身を乗り出してくる。
「シオ。そういうことを、統括とじっくり話し合うべきなんだよ」
……確かに。
シオは大きな落とし穴にはまっていたように感じた。
考えてみれば、統括と直接対話したことがない。
反乱分子の使者の提案に耳を貸し、統括と談義していれば、全面戦争という今の最悪な事態は避けられたのかもしれない。
しかし、全ては遅すぎた。
「ミル。統括のこと、どうしてもっと早く教えてくれなかったんだい? 情勢は変わってしまった」
シオはベッドから上体を浮かして、今度はミルを咎めた。
「現在の統括に俺と話し合う意思がないのは明白だ。既に聖狼連合軍を名乗り、侵攻してきている!」
つい、語調が強くなってしまう。
そんなに怖がらせてしまっただろうか。
ミルは急に縮こまって後退した。
窓ガラスにトンと背を打ち、おまけにどもる。
「ご、ごめ…。今なら信じてもらえると思ったから」
不愉快な気分を抑えるために布団を頭から被って、シオは狭い空間でミルの心を推し測った。
頭が冷えてくる。
まさしくミルの言う通りだ。
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