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反乱分子に煮え湯を呑まされ打ちのめされていたシオは、ミルと再会した時に聞かされても「ふざけるんじゃない」と一蹴していただろう。
大分落ち着いてきた今ですら、この調子だ。
後ろを振り向いても後悔しかできない。
シオは「こうすればよかった」という思案から「次はどうする」という前向きで建設的な思考に切り替えることにした。
「すまない。ミルの判断は正しかったよ」
被った布団をずらして目だけ出す。
シオはまばたきしながら、もそりと謝った。
「素直でよろしい。かわいいから許す」
ミルはつけあがってそんなことを言う。
「あ。その決まり文句は俺のストックの一つだ。盗らないでくれ」
思わずシオは、布団から顔を全部出してミルに文句を言った。
「知らないよ、そんな意味不明の表現ストック。ファーで独占したら、PTO(特許や商標の権利付与を担う機関)からクレームくるって」
冗談を言いながら窓際のカーテンをきっちり端まで閉めると、ミルはまた、シオの横たわるベッドの端に座った。
その重みでベッドのクッションが沈む。
「ねぇシオ。今からでも頑張ってみない? 統括、アーサ=ファー・ログレス五十三世との握手」
今更、反乱分子の統括と握手をする?
反乱分子に味方するサンザ共和国やカーサルーン王国。
その思惑も含め、互いが納得できる形で折り合いをつける余地は、現在あるのか?
シオは紅い目を何度もしばたいた。
たった今まで冗談を言っていたミルの声が真剣だった。
暗くてその表情はよく見えないが、伝導する空気で分かる。
「君は本気で言ってるんだね?」
「うん。統括はちゃんと話を聞いてくれるし素晴らしい人格者だから、和解への希望は絶対あると思うんだ。きっと聖狼連合軍も納得させてくれる」
悪かったね。
人の話を聞かない上に人格の未熟な皇帝で。
ミルの心を魅了する統括に嫉妬しながら、シオは胸中で呟いた。
真剣なミルに敬意を表し、声に出してひがむようなことはしない。
「だからシオ」
穏やかだが真剣な語調が強まる。
シオの意識はミルの発言に集中した。
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