259人が本棚に入れています
本棚に追加
「統括と和解する気があるなら、智慧を出してほしいんだ。帝国を力で捩じ伏せようとする…強引な戦争をやめさせるための智慧を」
ミルの一言一句に魂がこもって、きらりと光ったようにシオは錯覚した。
不思議だった。
「ミルは俺以上に帝国が嫌いだったよね。それに本来は統括の味方だろう?
帝国側で君をいじめる意地悪な俺の肩を持つなんて、一体どういう了見だい?」
「サラも呆れてる。きっとラヴァもね。でも僕は帝国じゃなくて、今の一生懸命なシオの力になりたいんだ」
ふふっと女みたいに笑うミルの高い声が、ベッドで寝そべるシオの頭上で軽快に響いた。
「父さんやファーの長も僕と同じ意思だよ。
ファーは、eterウイルスのワクチン開発に貢献し、未来を切り開いてくれた鷹のシオに感謝している。恩を返す準備がある。
だからシオは、戦争集結と病気療養のためにファーを存分に使ってくれたらいい。できることは協力する。
僕だって、皇帝の替え玉として奮闘しているヤンには負けないよ」
「ミル」
その口が紡ぐ言葉の欠片は、どれもシオの胸襟に心地よく浸透していく。
勇気を掻き立ててくれる。
……皆が…俺の力になってくれようとしている…。
この期に及んでミル達を騙そうと考えていた己を、シオは恥じた。
……それに反乱分子と和解できれば、アニィに再会……できるかもしれなくて…。
その瞬間、シオの中で意思が固まった。
「戦争の種を蒔いたのは帝国自身だ。だから俺は国の代表として、生えた芽を摘まなければならない。もう二度と芽が生えてこないよう、丁寧にね」
布団から出した手をすっと伸ばす。
女のような優しい顔の裏側に強い芯を持つミルもまた、シオに手を伸ばしてくれた。
純粋な希望を宿した声で晴れやかに笑っている。
「いつも回りくどいんだから。『統括と握手したいから分かった。ありがとう』って素直に言えば、さっきみたいにかわいいんだけど」
「頼むから、かわいい、という表現は勘弁してくれ」
最初のコメントを投稿しよう!