邂逅 pattern1剣士

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 魔王の指が男の頬に触れる。見た目よりも遥かに冷たい温度に、男は目を細めた。 「名前、」  りん、と、鈴のような声音が冷えた部屋に響いた。 「名前、教えてよ。勇者だけじゃ感慨が湧かない。」  男は目を見開く。魔族が人間に名を訪ねるなど、用途は多くない。早合点した男は、しかし観念したようにその口を開いた。 「ロード、」  低く、噛みしめるように名を紡ぐ。魔王が、嗤った気がした。 「ロード。」  屈託なく笑う魔王に、ロードは震える。  ああ、自分はもう、魔王の手で、亡き者にされてしまうのだ。無邪気な氷は、この体温を根こそぎ奪い、朽ちらせてしまうのだ。  嫌な汗が背を撫でる。気分が悪い。震えが治まらない。  差し出された指の冷たい感触だけが、ロードに理解出来る唯一の存在だった。  魔王はいつの間にか仰向けにされていたロードの上へ跨っていた。魔王の指が、頬が、脚が、身体の全てにまとわりつく。  冷え切った体温がロードの意に反し容赦なく熱を求め、魔王に心地よさを求める。  冷えたと思っていたのは自分だけのようで、魔王の体温というのも存在していた。    ロードの中にあるのは恐怖。剛神と恐れられた現役軍人のロードも、人外ならざる魔王の前では赤子同然と言っても過言ではなかった。    魔王はと言えば猫のように丸まり、ロードの上から動かない。いっそこのまま一突きしてくれれば、そのまま逝けるのに。そんな物騒なことを考えてしまった。 「魔王、貴様なにが目当てだ。」  痺れを切らしたロードは、動く気配のない腹の上の魔王へ問う。  顎下で魔王が身動ぎした。 「やるならやれ、」 「やるってなにを。」  この期に及んでまだ白を切るつもりか。怒鳴りたいがその気力はない。精一杯の気迫で答えた。 「殺すのはひと思いにしろと言っている。」  八年ぶりの勇者の願いだ、それくらい叶えてくれてもいいじゃないか。ロードは目を伏せ魔王の言葉を待つ。  鈴の声音の返事は、勇者たるロードに二度目の絶望を与えた。 「どうして殺すの。勿体ないじゃない。」  死刑宣告の方が、幾分かマシだ。ロードは頭を抱えた。
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