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「フジコ、本当にこれで終わりなのか……?」
「うん、そうだよ」
人々が行き交う駅前のロータリーで、スーツ姿の中年の男が若いOL風の女に泣き付いている。
どうやら二人は別れ話をしているようだった。
中年の男は未練がましく、必死に女に縋り付こうとしているが、女はすでに醒めているのか、平然としている。
そろそろ、決めようかな……。
アタシはキッと男を睨みつけて言った。
「……はっきり言うけど、アタシ、あんたの事、好きでも何でもなかったんだよね。ただ、利用したの……自分の利益の為に……」
「フジコ……?何言ってるんだ……?」
「……まだ解らないの?あんた、アタシに騙されてただけなんだよ……あ、アタシ、ほんとはフジコって名前じゃないから……」
そう言ってアタシはニッコリと男に微笑んだ。
次の瞬間、男は血相を変えてアタシの両肩を掴み掛かってきた。
ケースBか……。
アタシは男の両腕を軽く握り、脚を絡ませると、相手の力を利用し、男を地面に投げ飛ばした。
男は鼻っ柱をコンクリートに打ち付けられて、泡を喰っている。
その場にいた誰もがアタシ達に視線を送っていた。
だが、そこにいた誰もが、アタシが中年男を投げ飛ばしたとは到底思わなかっただろう……。
アタシは倒れている中年男の股間を、さりげなくヒールで踏み付けた。
男は苦痛の表情を見せ、意識を失った。
男は直前に叫び声を上げたが、周りの雑音によって打ち消された。
いつの間にか、アタシの周りに人だかりが出来ている。
「……この人が急に……誰か、救急車を呼んで下さい……」
そう叫びながら、アタシは予め用意していた会社のメアドに空メールを打った。
すぐに救急車がやってきて、救急隊員が中年男を収容した。
アタシも一緒に救急車に乗り込んだ。
ものの数分で、救急車はその場から走り去った。
もちろん、それは会社が用意した偽救急車だった……。
これで、98人……。
ここまで長い道程だった……。
あと、二人でアタシの目的は達成される……。
あと二人の男を落とせば、アタシは夢に見た“ジュリエット”になれる……。
【続く】
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