虐待人間

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ある時、まさとしがお気に入りの水筒を首からぶら下げてマウンテンバイクをおしてきた。 「かっこいい自転車だね」僕がそんな言葉をかけるとまさとしは嬉しそうに笑った。 「マウンテンバイクって言うんだぜ。知らないのかよ」 「僕は大平みたいに物知りじゃないだよ」 僕は本当にマウンテンバイクなんて言葉を知らなかった。この頃は何にも知らなくても生きていけたんだ。 「おじちゃんがくれたんだぜ。誕生日プレゼントだって言ってた、かっこいいだろう。」 「おじちゃんって誰だよ」 大平が眉間にシワをよせて聞いた。僕と康人はおじちゃんの話しを前に一度、まさとしから聞いた事があった。 「母ちゃんの好きな人だよ。いつか俺の父ちゃんになるんだってさ」 僕には笑って答えるまさとしが泣いてるようにしか見なくて不思議に思った。 「いいおじちゃんで羨ましいなあ。俺もマウンテンバイクが欲しいよ」 「大平君にだって立派な自転車があるじゃないか。」康人は大平の自転車を指さして言った。 「大平のより俺のマウンテンバイクの方がかっこいから仕方ないさ。」「けどな、俺はおじちゃんの事嫌いなんだ。」 変わらず笑って話すまさとしを見ていると、僕はなんだか気まずく感じて目をそらした。
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