「返り咲き中年ライダー 二十年ぶりのツーリング」

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*プロローグ 「藪(やぶ)の中から手をこんなふうに…」 と言いながら彼は、広げた両手を、顔の両脇にクルッとかざして、 「“パッ”という感じで現れたんだよ」  当時、幼稚園生だった彼と面(メン)とむかったというのだから、そのくらいの大きさなのだろう。  かざした指の間には水掻きがあって…  頭のてっぺんにはお皿があって…  色は虹色というか、何とも言えない光沢があって…  そしてたぶん、背中には甲羅を背負(しょ)っていたのだろう。  幼稚園からの帰り道。彼を含む幼子(おさなご)の一団は、川に沿った山越えの道で、そんな生き物に遭遇したのだそうだ。  大あわてで逃げ帰り、家にいたおばあちゃんに報告すると… 「そりゃ~カッパだべ」 と、事もなげに言われたそうな…。 「ウッソで~」  周りのみんなは本気にしてなかったけど、 『やっぱりいたんだ』  ぼくは心の中でうなずいた。  以前、数年前、出張先の酒宴の席。  同業他社でアルバイトしていた元ミュージシャンのそんな話に、『いつかは遠野を訪れてみたい』…そんな思いが根付いていたのだろう。  彼は、「柳田国男」の『遠野物語』や、カッパ伝説で有名な、岩手県は「遠野(とおの)」の出身だった。
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