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*プロローグ
「藪(やぶ)の中から手をこんなふうに…」
と言いながら彼は、広げた両手を、顔の両脇にクルッとかざして、
「“パッ”という感じで現れたんだよ」
当時、幼稚園生だった彼と面(メン)とむかったというのだから、そのくらいの大きさなのだろう。
かざした指の間には水掻きがあって…
頭のてっぺんにはお皿があって…
色は虹色というか、何とも言えない光沢があって…
そしてたぶん、背中には甲羅を背負(しょ)っていたのだろう。
幼稚園からの帰り道。彼を含む幼子(おさなご)の一団は、川に沿った山越えの道で、そんな生き物に遭遇したのだそうだ。
大あわてで逃げ帰り、家にいたおばあちゃんに報告すると…
「そりゃ~カッパだべ」
と、事もなげに言われたそうな…。
「ウッソで~」
周りのみんなは本気にしてなかったけど、
『やっぱりいたんだ』
ぼくは心の中でうなずいた。
以前、数年前、出張先の酒宴の席。
同業他社でアルバイトしていた元ミュージシャンのそんな話に、『いつかは遠野を訪れてみたい』…そんな思いが根付いていたのだろう。
彼は、「柳田国男」の『遠野物語』や、カッパ伝説で有名な、岩手県は「遠野(とおの)」の出身だった。
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