「返り咲き中年ライダー 二十年ぶりのツーリング」

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 片岡義男の小説じゃないけれど、ぼくは自作・持参のにぎりめしをほおばった。  本日最初の休憩は、ガス補給も兼ねて立ち寄った、ここ「那須高原サービスエリア」。  朝も早い時間。トリップ・メーターは、まだ「68・3km」を示しただけだが、満タンで出発したわけではないし、腹も減った。  それに、高速の風圧にバイクの振動。少々疲れた。  なにしろ、20代前半でMXのレースを始めて以来、ツーリングはおろか、バイクで公道を走った事がなかったのだから…。  その上、30代前半でMXをやめた後の数年間、ナンバー付きのコイツを手に入れるまで、バイクに触れた事すらなかったのだから…。  自分とバイクの腹を満たし、ここからが本格的なスタートだ。すぐに福島県に入る。  コイツで県外に出るのは、今回が初めて。  かつては、北は北海道の礼文島から、南は沖縄の西表島まで走破したけど、ツーリングに出るのは、実に二十年ぶり。しょっぱなから、何か感慨深いものがある。 「フ~」  距離を重ねるにつれ、肩の荷がス~ッと降りていくようだ。  だいたい、こんな不景気な御時世だというのに、ぼくの仕事は忙しい。このクソ暑い中、休日だってままならない。  でも、たまたま四日ほど、ポッカリ穴が開いた。そこで、前々から暖めていた「遠野行き」を決行にうつしたのだ。 (本当は、「仕事だから」なんて言い訳する人生、送りたいわけじゃない。でも、年を重ねるにつれ、いろんな“しがらみ”とかが増えていって、“にっちもさっちも”いかなくなる)。  朝方は曇り気味。昨夜の雨で路面が濡れている所もあったが、夏の陽が射し始めた。今日も暑くなりそうだ。  次の休憩は、宮城県境に近い「国見(くにみ)SA」。ここでは小休止のみ。ここからは、もらい物のスタジャンを脱いで、グリーンのトレーナーで走り出す。  国見から先は、クネクネとしたアップダウンが続き、仙台周辺という事もあって、少々混雑。トラックなどの営業車はいつもより少な目だけど、夏のこの時期、帰省や行楽風の車が多く、ペースは良くない。  仙台を過ぎ、混雑地帯を抜けると、東北らしい広々とした田園風景が開ける。  ぼくは昔から、夏のトーホクが大好きだ。そんな事も、北へ進路を取った理由のひとつだ。
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