君は、白い。

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 翌日の夕方に、雪はぶっつりとやみ、空を塗り潰していた雪も退散して、月が冷たい大地を照らした。雪はだいぶ深く積もり、気をつけないと、膝まですっぽり埋もれてしまう。  僕は、母さんにも他の人にもないしょで、こっそり家を抜け出した。何か用があるわけでもなく、ただ鳴世の顔を見て安心したいだけだった。  僕は、鳴世の家のある方角へ向かって、一度も呼吸しないくらいの真剣さで歩き続けた。  ふいに足が止まったのは、ぼそぼそと押し殺した話し声が聞こえたからだ。 「なぁ、本当にやるのかい」 「しかたなかろうよ。気が重いがな」 「五十年に一度、だとよ。あの子も本当に気の毒だねぇ」 「でも、生まれたときから決まってたんだろう」 「らしいな。本人も知らないだろうし、わしもさっき、初めて聞かされたんだがね」  村の男たち数人の声とともに、雪を踏みしめていく足音も聞こえる。どこへ行くのだろう。  森のほうへ向かう細い道を、僕は木の陰からそっと覗き見た。顔が分からないほどにしっかりと防寒具を着込んだ彼らは、手に手に大きなスコップを持っている。何かを掘りに行くのだろうか。  あとをつけて確かめたくなったけれど、その前に、鳴世の無事を確認したい。僕は、静かな駆け足で、鳴世の家をめざした。  老婆と鳴世が暮らす小さな家の戸の前には、橙色の光を放つ提灯が吊るされていた。 (お盆でもないのに)  僕は、不思議に思いながら戸を叩こうとして、思いとどまった。鳴世の姿が見たいだけなのだから、わざわざ呼び出さなくとも、そっと覗けばいいではないか。庭のほうに回って、垣根の隙間から見れば、障子に映る影が確認できるはずだ。  僕は、後ろめたさを塗り潰すように早足で、垣根のそばに近寄った。目をこらすと、障子に二つの影が映っているのが見えた。一人は老婆だろうが、もう片方は鳴世ではない。べつの少女のようだった。  二人の話し声が、微かに漏れている。  僕は、いけないとは知りながらも、そっと庭に忍び込んで、壁に耳を押しつけた。
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