君は、白い。

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「ねぇ、なぁにが?」  灰色の曇り空をしかめ面で見上げていたら、突然声をかけられた。  鳴世だった。  確か、二、三日前まで、熱を出して寝込んでいたのだ。治ってしまうとすべて忘れるらしく、彼女はけろっとした顔で、膝から下を冷たい風に晒している。 「何でもないよ」  僕は、ついっと目をそらしてごまかした。  鳴世は、こないだ十三歳になったというのに、相変わらず子どもみたいなことばかりして遊んでいる。  この村においては珍しく、彼女にはきょうだいが一人もおらず、友人たちはそれぞれ大人びてしまったので、今はたいてい独りぼっちだ。ときどき寂しくなるらしくて、こうして僕のところに来る。それはきまってしんしんと寒い日で、今にも雪が降りそうな空が広がっているときだ。 「最近、鳴世と遊んでくれるの、いっちゃんだけだね」  ふぅ、と白い息を吐きながら、鳴世は言う。  寂しく感じているのだろうが、その顔にはふんわりと微笑みが載っていた。 「みんなきっと、忙しいんだろ。用が片付いたらまた、遊んでくれるさ」  僕は、そんなことはぜったいにないだろうと分かっていながら、無責任な嘘をついた。  鳴世は変わらないのだろうか、とふと気になったが、そういえば彼女には、変化することを教えてくれる父母や兄姉がいない。  鳴世は老婆と二人暮らしだったが、その老婆は鳴世と血がつながっているわけではなかった。老婆は巫女のような存在で、村の中では最高齢だ。何か呪術的な力を受け継いでいる者として畏れられていて、悩みを抱えた村人は、そっと彼女の家を訪ねる。  鳴世がなぜ彼女と暮らしているのか、くわしく知っている者はいなかった。けれど、何か秘密があるのは確かで、知っているらしい一部の大人は、きまって、ばつが悪そうな顔で口を閉ざしてしまう。  好奇心旺盛な子どもの一人が、直接老婆に尋ねたところ、 「神命だよ。神様の、命令だね」  と、しわがれた声で答えたという。  鳴世自身は何も言わず、いつもどおり笑っているだけだった。 「ねぇ、いっちゃん。雪、降るかなぁ」  鳴世は空を見上げて、くすくす笑う。  彼女はいつだって、難しいことは何ひとつ考えていない。
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