君は、白い。

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 村に嵐がやってきたときも、びしょびしょになって僕のところに遊びに来た。 「いっちゃん、いっちゃん。すごいの、風がびゅうびゅうしてる。雨もいっぱい、降ってるよ」  髪はぐっしょりと濡れ、着物も暴風雨に乱されて、脱げかけていた。  そのひどいありさまを見た僕の母さんは、慌ててタオルを持ってきて彼女を包み込み、僕に向こうへ行くように言った。 「鳴世ちゃん。こんな天気の日は、お外へ出ちゃダメよ」  襖の向こうで着替えさせながら、何度も言い聞かせていたようだが、鳴世は分かっていないに違いなかった。  もちろん、その後熱を出して、しばらくうちで寝込んでいた。  母さんは、 「鳴世ちゃんのことはお隣に頼むから、あなたは何もしちゃいけませんよ」  と、ややきつい口調で、僕を彼女から遠ざけた。 「どうして」とは訊けない雰囲気だったので、母さんが出かけた後で、世話をしに来てくれたお隣のお姉さんに尋ねた。  小太りで、人のよさそうな印象のお姉さんはおかしそうに笑って、 「男の子だからよ」  とだけしか、答えてくれなかった。  鳴世は、熱が引いてくると、 「いっちゃん。あたし、退屈」  と、何度も僕に話しかけてきた。  襖越しに聞く声は少しかすれていたが、鳴世は元気そうだった。  もう完全に治ったなと思われるころに、老婆が杖をついて迎えに来た。 「ばあちゃん!」  鳴世は、うれしそうに声をあげて、老婆に飛びついていった。 「ああ、ああ。よかったのう。死なんで」  老婆は、本当の祖母のように、温かい腕を広げて、彼女を受けとめた。 「お世話になりました」  神々しい雰囲気の老婆に深く頭を下げられ、僕も母さんも、何となく神妙な気持ちで、「いいえ」と首を振った。 「いっちゃん、また遊んでねぇ」  鳴世だけが元気にとび跳ねながら、無邪気ににこにこしていた。
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