君は、白い。

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 今も、寒さなどまるで感じていないような顔で、空を見上げている。 「なぁ、おまえ、遊ぶ以外にすることないの?」  僕は、母さんに言いつけられた用事を一つ二つ思い出しながら訊いた。 「ないよ。うち、いろんな人が手伝ってくれるし。鳴世は何もしなくていいって」  きっと、何かするとかえって邪魔になるのだろう。縁談もないようだし、誰も鳴世の今後を話題にしない。  老婆はいずれ先に亡くなるだろうし、生活力のない鳴世は路頭に迷うに違いないのに。  ふらふらしている娘に厳しい村人たちも、噂話ひとつしなかった。どころか、鳴世が来ると、駄菓子や紙風船をやって、小さな子どもと同じように可愛がっていた。 「いっちゃん。いっちゃんは忙しいの?」  いたずらっぽい目が、くるんとこちらを見る。 「まぁ。ときどきはね」  さまざまな雑事と勉強と、村の行事や友達づきあい。たわいないことばかりだが、僕の生き方は確実に、親に守られる「子ども」から、一人の村人としての「大人」に変わりつつある。  鳴世と同じ年頃の少女たちはみな、幼稚な遊びなどしなくなって、「娘」というものになろうとしているのに、なぜ彼女は取り残されているのだろう。 「鳴世、これからどうするの?」  僕は、できるだけ軽い口調で訊いた。 「えっと……雪で遊ぶよ」 「そうじゃなくて」  ずっと、いや、少し先のことだ。 「ああ。あたしは、ずっとばあちゃんと暮らすけど」  にこにこしている彼女は、本気でそう思っているらしかった。 「ばあちゃんも、そう言ってるの」  そんな生活はおそらく、あと十年も続かないだろうに。 「……そうか」  僕はうっすらと恐ろしかった。  鳴世の能天気さが、ではなく、この村が怖かった。  いったい、何を隠しているのだろう。  鳴世をどうするつもりなのだろう。  いっそ、僕が面倒みてやろうか。鳴世が独りで放り出されたら。  でも、僕だっていつかは結婚するのだ。  妻に、何と説明すればいい?  ほとんど同い年の、遊ぶこと以外何も知らない彼女を、快く受け入れてくれるだろうか。仮に妻が承諾したとしても、そんなおかしなことは、母さんが許さないに違いない。
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