君は、白い。

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 こうなったら、僕が彼女を妻にしようか。父さんも母さんも反対するだろうけど。 「妻になってくれ」と頼んでも、鳴世はきょとんとするだけかもしれないが、いっしょに暮らすことをいやがりはしないだろう。  何の役にも立たない考えをひとしきり展開させた後、僕はふと冷静になった。  ――いくら空想したって、しかたないじゃないか。  結局、彼女のことは彼女自身が何とかするしかないのだから。  まだ時間はあるのだし、鳴世だって、いつかはきっと大人になるだろう。  僕は、あまり余計な気を回すまいと決めて、 「そろそろ帰るよ」  と、彼女に別れを告げた。 「うん」  鳴世は、淡い色の爪の生えた手を、小さく振る。  僕が立ち去る間際に、鳴世は顔を傾けて、 「いっちゃん、これからもずっと、あたしと遊んでくれる?」  と、尋ねてきた。  手のひらにすっぽり収まりそうなくらいに小さく、きれいにカーブしている顎の輪郭を、僕は思わず目でなぞってしまった。  媚びている気配はまるでないとはいえ、人より幼い彼女だって、外見はちゃんと十三歳の少女なのだ。若葉のように初々しい、色香の鱗粉らしきものが、その肌や身体の線にまとわりつき始めている。  ちらちら、ついに降ってきだした雪を、頬や髪で受けとめながら、僕は密かに戸惑った。  背の低い鳴世の、崩れかけた着物の胸元から、肌の一部が必要以上に見えている。 「遊んでくれるか」と問われて、僕は安易に「うん」とは言えないでいた。自分はもう遊ぶような年齢ではないし、彼女だって、いいかげん幼さを脱ぎ捨てなければならない年ごろなのだ。 「そうだな……、考えておくよ」  迷ったあげく、僕は答えを、次に会うときまで保留にした。 「ふうん」  鳴世は、純粋そのものの瞳で僕を見て、鼻と喉の間辺りで返事をした。  ヘタに「一生遊んでやる」なんて約束したら、彼女は本当に信じてしまうかもしれなかった。僕は彼女のそういうところが、たまらなく恐ろしかったのだ。 「またな、鳴世」 「うん。ばいばい、いっちゃん」  いつもどおりに別れの挨拶を交わして、彼女に背を向けた僕は、舞い始めた雪をかき分けて帰路を急ぎながら、鳴世の行く末に想いを馳せていた。
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