君は、白い。

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 その夜、雪は、いつになく激しく降った。  虫の居所の悪い誰かが、気晴らしにと、一心不乱に粉をふるっているかのようだった。  僕は家の手伝いをすませ、少しだけ勉強して、早めに寝る支度をした。激しく吹き荒れる風に乗って、冷たく硬い雪の粒が、屋根にも壁にも叩きつけられている。 (鳴世のやつ、外で遊んでたりしないだろうな)  さすがに、この暴風と雪の中、まともな人間なら外へ出たりはしないだろうが。彼女のことだから、何をしでかすか分からない。  白い景色の中、声をあげて笑っている彼女の姿を思い浮かべているうちに、いつのまにか眠ってしまっていた。 「いっちゃん」  いっちゃん、と鳴世が僕を繰り返し呼んでいる。声が尾を引くように響いて、何となく悲しげだ。 「……鳴世?」  どこにいるのだろう。  雪はもう降っていないし、空は切なくなるくらい青く澄んでいる。気づかないうちに春が巡ってきたのか、白い蝶がひらひらと舞い、黄緑の草がいきいきと茂っていた。 「鳴世ぉ」  彼女はどこにいるのだろう。  僕は、小さな妹を探すように、夢中になって呼んだ。 「鳴世ぉ」  ――ここだよ、いっちゃん。  足下からふいに、ふわりと声が返ってきた。 「え?」  僕が視線を落とすと、何と、足のすぐそばに声の源があった。  鳴世は、地面の下に埋められていたのだ。目を向けたとたんに、土が厚い氷に変わって、埋められている鳴世の姿を見せてくれた。  鳴世は、瞳を閉じて、やすらかな顔で眠っている。もしかしたら、すでに息絶えているのかもしれなかった。 「鳴世ぉっ!」  僕は、急いで彼女を救いだそうと氷の大地を叩いたが、そのくらいではびくともしなかった。鳴世は何かよく分からないものによって、囚われてしまっていた。  僕以外に誰も、彼女を呼ぶものはおらず、助けようとする者もいない。 「鳴世ぉっ!」  待ってろ、僕だけでもおまえを守ってやる。  実際の年齢より少し幼くて、何も分かっていないような彼女を、僕は心から愛しているのだ。そのことにたった今、気がついた。 「鳴世、鳴世っ!」  力まかせに叩いた氷に、ほんの少しひびが入って、僕の手の皮膚が同じように裂けたとき、ふっと目が覚めた。
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