1人が本棚に入れています
本棚に追加
その夜、雪は、いつになく激しく降った。
虫の居所の悪い誰かが、気晴らしにと、一心不乱に粉をふるっているかのようだった。
僕は家の手伝いをすませ、少しだけ勉強して、早めに寝る支度をした。激しく吹き荒れる風に乗って、冷たく硬い雪の粒が、屋根にも壁にも叩きつけられている。
(鳴世のやつ、外で遊んでたりしないだろうな)
さすがに、この暴風と雪の中、まともな人間なら外へ出たりはしないだろうが。彼女のことだから、何をしでかすか分からない。
白い景色の中、声をあげて笑っている彼女の姿を思い浮かべているうちに、いつのまにか眠ってしまっていた。
「いっちゃん」
いっちゃん、と鳴世が僕を繰り返し呼んでいる。声が尾を引くように響いて、何となく悲しげだ。
「……鳴世?」
どこにいるのだろう。
雪はもう降っていないし、空は切なくなるくらい青く澄んでいる。気づかないうちに春が巡ってきたのか、白い蝶がひらひらと舞い、黄緑の草がいきいきと茂っていた。
「鳴世ぉ」
彼女はどこにいるのだろう。
僕は、小さな妹を探すように、夢中になって呼んだ。
「鳴世ぉ」
――ここだよ、いっちゃん。
足下からふいに、ふわりと声が返ってきた。
「え?」
僕が視線を落とすと、何と、足のすぐそばに声の源があった。
鳴世は、地面の下に埋められていたのだ。目を向けたとたんに、土が厚い氷に変わって、埋められている鳴世の姿を見せてくれた。
鳴世は、瞳を閉じて、やすらかな顔で眠っている。もしかしたら、すでに息絶えているのかもしれなかった。
「鳴世ぉっ!」
僕は、急いで彼女を救いだそうと氷の大地を叩いたが、そのくらいではびくともしなかった。鳴世は何かよく分からないものによって、囚われてしまっていた。
僕以外に誰も、彼女を呼ぶものはおらず、助けようとする者もいない。
「鳴世ぉっ!」
待ってろ、僕だけでもおまえを守ってやる。
実際の年齢より少し幼くて、何も分かっていないような彼女を、僕は心から愛しているのだ。そのことにたった今、気がついた。
「鳴世、鳴世っ!」
力まかせに叩いた氷に、ほんの少しひびが入って、僕の手の皮膚が同じように裂けたとき、ふっと目が覚めた。
最初のコメントを投稿しよう!