君は、白い。

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「何だ……」  彼女が本当に、埋められてしまったのかと思った。夢だとすぐに気づけなかった僕の瞳は、冷たく濡れていた。  外では相変わらず、激しい雪が風と抱き合って、身をくねらせている。家の中が静かなところからみると、夜はまだ明けていないのだろう。どんな天気の日でも、必ず同じ時刻に起きる母さんが、まだ眠っているようだから。 (鳴世も、眠っているだろうか)  いろいろな人が訪れるとはいえ、基本的には老婆と二人きりの暮らしだ。  小さな古い家で、鳴世はどんな夢を見ているのだろう。  僕はその日一日、書き物をしたりして穏やかに過ごしたが、胸の中はなぜか、鳴世のことでいっぱいだった。  その夜も、前日に引き続き、不吉な感じの夢を見た。絶え間なく降る雪の中、鳴世が一人で遊んでいるのだ。何を見ているのか、無邪気に声をあげて笑っている。その間にも、花びらのような雪が降り続け、鳴世を包み込んでいた。  ――危ないよ、鳴世。  僕は彼女を呼ぶけれど、声が届くことはない。鳴世めがけて降る雪はいつしか吹雪になり、激しく吹きつけて、その身体を巻き取ってしまった。  鳴世は悲鳴ひとつあげず、僕の目の前で雪の中へ消えた。 「鳴世ぉおッ!」  叫んだとたん、また目が覚めた。  僕は天井を見つめながら、彼女に何かあったのではないかと、胸騒ぎを感じていた。  戸を開けてみたけれど、雪はまだやんでおらず、吹雪に近い状態だったので、遠くはよく見えなかった。まさか、鳴世が外で遊んでいることはないと思うが、二度も見た悪い夢が、たまらなく苦い後味を残していた。 (雪がやんだら一度、彼女を訪ねようか)  僕は初めて、自分から鳴世のところへ行こうと思った。いつも、彼女が押しかけてきて、「いっしょに遊ぼ」と弾んだ声で誘うまで、彼女のことなどちらりとも考えなかったのだが、ここ数日は寝ても覚めても鳴世のことばかりだった。  本当に、好きなのかもしれない。それが、異性にあてた想いなのかどうかは、まだはっきり分からなかったけれど。
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