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「こんなのって……マジ有り得ないから。杏ちゃんビールおかわり!」
私、佐伯萌香(サエキ・モカ)は、幼なじみで親友の皆川杏子(ミナガワ・キョウコ)の実家が経営する居酒屋のカウンター席に座って酔っ払っていた。
「萌香……飲み過ぎじゃない?もう止めなよ?」
「何言ってんの、私客だよ?お客!早くビールちょうだいっ」
「モカちゃん今日はなんか荒れてるわねぇ?職場で何かあったの?」
おばさんは私にビールを差し出しながら、心配そうにそう訊いてきた。
「お母さん気にしなくていいわよ!ただの失恋なんだから」
「あら?モカちゃんあの素敵な彼氏と別れちゃったの?誠実で優しそうだったのに。おばさんはてっきり結婚するのかと……」
「……」
「お母さん!ほらお客さん来たから注文聞いて来てよ」
杏子がおばさんにそう言って追っ払ってくれた。
そう……。
割とお酒に強い私が、酔っ払ってる理由は正にそれ。
今日。
私は3年も付き合っていた川瀬廉(カワセ・レン)に突然振られた。
廉とは友達の結婚式で知り合い付き合い始めた。
私にはもちろん。
誰にでも優しくてよく喧嘩もした。
それでも結婚するなら廉しか考えられなかった。
それなのに……。
今から遡ること3時間前に、廉からメールが届いた。
『大事な話しがあるからこれから会える?』
馬鹿な私はそれを廉からのプロポーズだと思ってしまった。
だって。
誰だって普通はそう思うでしょ?
意気揚々と約束の店にまで行ったのに……。
「萌香。別れよう」
「えっ!?今……何て?」
突然の廉からの別れの言葉。
まさか。
思ってもいなかった言葉に愕然となった。
「ごめん。他に好きな人が出来た」
「どうゆう事?」
「彼女は俺がいないとダメなんだ。萌香は強いから俺がいなくても大丈夫だろ?」
「……」
ワイングラスを持つ手が震える。
ドラマで見るようなあまりにも陳腐なセリフ。
私が強い?
ねぇ廉……。
貴方はこの3年間、私の何を見てきたの?
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