2人で過ごす誕生日

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「萌香……」 彼の掠(かす)れた声だけが部屋中に響き渡った。 耳元で甘く名前を囁かれたかと思うと、彼の唇が私の唇を絡めるようにして重なった。 「ん……っ」 角度を変え深くなるキスに、彼の浴衣の 袂(たもと)を軽く掴んだ。 唇を離し、今度は首筋にたくさんのキスが落ちてくる。 無防備な私の首筋に、彼の息が掛かったかと思うとそこに電流が走った。 「……っ」  首筋に感じる軽い痛みと彼から洩れる息が、私の中のオンナを呼び起こす。 再び唇を塞がれると、彼の舌はいつものように激しく深く私を侵していった。 彼は唇を重ねたままアップにまとめてるバレッタを外すと、髪が肩に掛かった。 下ろした髪を耳に掛け露(あらわ)になったそこを甘咬みすると、そのまま私を静かに布団の上に倒していく。 私を見下ろす彼の浴衣姿が眩しくて、思わず目を逸らしてしまう。 「ったく……毎度毎度逃げやがって。そろそろ慣れろよ。そうやって逃げると追いたくなるって……」 彼はそう言うと私の頬にソッと手を添えた。 だって。 恥ずかしいものは恥ずかしいんだもん。 「まぁ、お前らしいっちゃお前らしいけど、こっちも逃がすつもりはねぇからな」 彼の唇が私の呼吸ごと受け止める様に重なった。 今の言葉が嘘じゃないように、彼は角度を変え更に深いキスをしてきた。 「んん……っ」 一度(ひとたび)本気の彼のキスを受け入れたら、私の中のオンナが更に目覚めていく。 こうやってまた彼に抱かれながら堕ちていくんだ……。   いつものように彼は明け方まで何度も私を抱いた。 そしていつものように抱き締めながら眠りにつく。 これが彼の愛し方だ。   でも何故なんだろう。 彼に誘われる事も。 こうやって誕生日を過ごせる事も。 ただ彼と一緒に居るだけで幸せなのに、どんどん心が欲張りになっていく。 初めはただ好きなだけで良かったのに……。 何度身体を重ねても、彼は一度も好きとは言ってくれない。 もしかしたら、彼には本命の彼女が居るのかもしれない。 【歩く野獣】の異名を持つ彼だもの。 本命がいてもおかしくないけど、だったら何故私を誘うの? こうやって誕生日を一緒に過ごしたり、 それ以上に何故何度も私を抱くの? 好きな人にも自分を好きになって貰いたいと思うのは変かな? 私の中に小さな不安が芽生えたのもこの時からだった。   彼は私の中で小さな変化が起きてる事を知らない。
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