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「ねぇねぇマコ。店長と話してる綺麗な女性(ひと)、たまに来るけど常連?」
バレンタインデーも終えたある日、バーカウンターで彼と親しげに話している女性についてマコトに訊いてみた。
今日は暇な方で彼と話している女性以外はお客はいなかった為、マコトとその見覚えのある女性について少しお喋りを始めた。
「あぁ!あの人?常連だけど、吉村さん専用のお客さんかな」
「専用?何かホストみたいだね?」
「萌香さん覚えてない?銀座のクラブのママが、吉村さんに惚れてるって話し」
「あぁ、前に聞いた事あるような……」
「あの人が詩織さんだよ。北原詩織(キタハラ・シオリ)さん」
「えっ……?」
バイトを始めて直ぐの頃、マコト達と行ったもんじゃ屋で話してたのを思い出す。
その時は彼の事なんてなんとも思っていなかったから、その話を聞き流してたけど……。
忘れていた【詩織】と言う名前に胸がドクンとなった。
「あの人が……詩織さん……」
動揺を隠せないままマコトに聞こえないようそう呟くと、もう一度2人に視線を移した。
マコトに言われるまで、詩織さんの存在はただの想像でしかなかったのに……。
あの人が詩織さん。
あんなに綺麗な人だったんだ。
詩織さんを現実に見ると溜息しか出てこない。
さすが銀座でクラブのママをやってるだけあって、詩織さんって素っぴんに近いメイクでも綺麗。
女の私がそう思うんだから、男のマコトが綺麗と言うのも頷ける。
彼と親しげに話す詩織さんはとても嬉しそうで、それが何を意味するのか私には理解出来た。
彼女の表情は恋する女の顔そのものだったから。
彼が時折、詩織さんに見せる眼差しに胸が痛くなった。
ズキッ……。
私は彼のあの表情を見た事がない。
彼の表情を見てまた不安が押し寄せる。
ううん、違う。
確かに不安もそうだけど、今私を占めてる感情は詩織さんへの嫉妬だ。
あの2人を見たくなくて思わず視線を逸らした。
「吉村さんから前に聞いたんだけど。詩織さんとは付き合った事はないみたいなんだけど、彼女が居ても他の遊びと違ってずっと続いてるんだって。以前あんな事言ってたけど、なんだかんだ言ってお気に入りなんじゃん?それにしてもあの2人、お似合いだよね?」
聞いてもいない事を、マコトは丁寧に教えてくれた。
分かってる。
マコトは悪気があって言ってるんじゃない事ぐらい。
分かってるけど、これ以上は無理。
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