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詩織さんが思い付きで、こんな事を言ってるんじゃないのも分かってる。
マコトが言ってたっけ。
彼と詩織さんは長い付き合いだって。
それにあの仕事で培ってきた観察力と、女の直感でそう訊いてるのだと。
だから、一昨日も色んな質問をしてきたんだ。
「……何んで、そう思った……んですか?」
「それは……萌香さんが飛翔のお店でバイトしてるから」
「えっ!?」
想定外な答えに思わず訊き返した。
「彼、言ってたのよ。あのお店がオープンする前に、女の子のバイトは採用しないって。それなのに、お店に行く度に貴女が居た」
そんな事、初めて聞いた。
確かにあの店に女は私しか居ないけど。
「今の話、初めて知りました。でも……」
「それは貴女が悪い訳じゃないもの。でもごめんなさい、責めてるんじゃないの。ただね……この前飛翔に会いに行った時に視線を感じたの」
「……っ!?」
詩織さんもあの時気付いたんだ。
私でさえ気付くんだもん、詩織さんが気付かない筈がない。
「その視線はマコっちゃんな筈がない。だとしたらあの時マコっちゃんと一緒に居た萌香さんしか考えられなくて……」
「わ、私は別にそんなんじゃなくて……詩織さんが綺麗で見惚れてただけです」
咄嗟にそんな事を言ってしまったけど、私の嘘なんてお見通しだよね。
彼女に何て言っていいか分からず黙り込んだ。
「私ね、飛翔を愛してるの……」
ズキッ……。
突然の詩織さんの告白に鈍い痛みが胸を襲う。
「実は私と彼、飛翔とは大学の同級生なの」
詩織さんがアイスコーヒーを一口飲むとそう切り出した。
詩織さんの話しはこうだった。
大学に入学して間もない頃。
詩織さんは新歓コンパで見掛けた彼に、一目惚れをしたんだって。
彼の周りにはいつも沢山の女の子がいたから、話し掛けられなくてただ見てるだけの毎日を過ごしてた。
彼が彼女をとっかえひっかえしても、諦められなかったらしい。
あの彼ならやりかねないと、詩織さんの話しを聞きながらそんな事をふと思う。
学生時代から【歩く野獣】伝説は、既に健在していたのかと実感した。
まぁ、その武勇伝は聞かなくても想像は出来るけど。
でも意外。
今私の目の前に居る詩織さんが、学生時代は彼と話す事も出来なかったなんて。
この前、2人を見た限りじゃ全然想像も出来ない感じだったけど?
詩織さんは一息吐くかのように、アイスコーヒーに口をつけた。
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