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「彼と付き合っても、直ぐ別れて会えなくなるくらいなら今のままでいいと思うの。そうしたら、彼と一緒に居られるから。その反面、彼の1番じゃなくて……彼女になりたいのも本当の気持ちよ。いつかは私だけを見て欲しいと、思うのは女なら誰もが考えるでしょ。私も同じよ。萌香さんからしたら、馬鹿な女だと思うでしょ……?」
「……」
詩織さんの本気の想いを知って何も言えなくなる……。
美人で地位も名誉も富も、全て持っていて。
欲しい物は何でも手に入る事が出来る詩織さんの、唯一手に入れたくても出来ないモノ。
それが彼なんだ。
オンリーワンじゃなく、1番に拘(こだわ)る詩織さん。
恋愛に対して価値観は違うのに、詩織さんの気持ちが痛い程分かってしまう。
それと同時に。
詩織さんの彼に対する深い想いが切なかった……。
彼と出逢ってから、女性のお客さんに優しくする所しか見てないし、唯一仲が良さそうな詩織さんの存在だけでこんなに胸が痛いのに、詩織さんはそんな彼をずっと見てきたんだよね。
彼が女の子をとっかえひっかえする度に、彼女はどんな想いだったんだろう。
本当はそんなもの見たくないぐらいに切ないのに、表面上は笑顔で彼を受け入れてたのだと思うと切なくて胸が痛い。
それを自分に置き換えてみるだけで胸が張り裂けそう。
私には無理だ!
なんとなく、詩織さんが私に会いに来た理由が分かった気がする。
彼女も不安なんだと……。
無意識に涙が頬を伝ってきた。
「萌香さん?」
突然泣き出した私に、詩織さんが心配そうに声を掛ける。
「すみません。いきなり泣き出して……」
「私のせいよね?ごめんなさい。いきなりこんな話ししてしまって……」
私は首を横に振った。
「私の身勝手で萌香さんに嫌な思いさせちゃって、私が今言った事忘れて?萌香さんに迷惑かけるつもりじゃなかったのに。本当にごめんなさい」
そう言うと、詩織さんは最後にもう一度、深々とお辞儀をして店を後にした。
自分だけが苦しい恋をしてると思ってた。
それ以上に、苦しくて切ない想いを何年も抱えてきた詩織さんを知ってしまった。
他の人から見たら同情なのかもしれない、それでも同じ女として気持ちはすごい分かるから。
やっぱり。
あの人には敵(かな)わない。
私は詩織さんの切ない想いに溢れてくる涙を拭う事も出来ずに、ただ声を殺して泣き続けた。
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