逃げ道

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詩織さんと会った日から、彼を少しずつ避けるようになっていた。   いつもならバイトが終わった後にしていた、寛(くつろ)ぎタイムにもあまり参加しなくなった。   みんなが寛いでいる時に、さっさと着替えて早々店を出る。   これが私の最近のバイトでの日常。   いざ彼の事を諦めると決めても、こうしてバイトで顔を合わせてしまうから、こうでもしないと諦められなさそうで……。 ただ、彼からの誘いをなるべく断るようにしても、全てを断れない私は言われるままに彼の誘いに応じてしまう。 矛盾してると思うけど、彼の誘いに応じた時は拒めずに何度も彼に抱かれた。 こんな状況でも、彼に誘われるのは嬉しいと思う自分が居た。 その一方で。 彼に抱かれながら、詩織さんを思い出して切なくなった。   彼に抱かれた後は必ずと言っていい程、自分の部屋で泣いた。   最近はずっとそれの繰り返し。   本当は分かってるの。 詩織さんの事だけが切ないんじゃないと。   彼を諦めようと思えば思うほど、胸が苦しくなる自分がいたから。   こんなにも彼を好きだったなんて……。   今更ながら、彼への想いが大きくなっている事に気付かされる。 でも。 終わりにしなきゃダメだよね。   彼からの言葉は期待しちゃダメなんだから……。 油断していたら、思い出す詩織さんのあの言葉。 『飛翔は誰にも本気にならない』  あの日から何度もリピートしていて耳から離れない。   今の私には呪縛のように思えて仕方ない。 どうしたら彼を忘れられる?   もしディズニーランドに行ったあの夜に、彼に抱かれなかったらこんな気持ちにならなかったのかな?   多分。 答えはNOだと思う。   あの夜がなくても、きっと彼に惹かれていた筈だから。   それは私にとって必要でも、彼には必要じゃなかったんだよね。   ダメだなぁ私。   元々。 ヘタレな私は詩織さんと会ってから、一層ヘタレ街道を突っ走っている。   杏子の店に行く気にも、由希とも飲む気にもなれないでいた。 こんな時でもあの2人は、私をもっと撃沈させるだろうし。   まして。 詩織さんを素敵な女性(ひと)って言っている美咲とは、到底サシで遊ぶ気にもなれなくて。 ただひたすら、毎日どうしたらいいのかを自問自答しながら過ごしていた。   何か……。 今の私って、軽い引きこもり状態みたい。   本当どうしていいか分からない。
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