逃げ道

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エレベーターで1階まで戻ると、先(ま)ずはジンベイコーナーから見学をした。 さっきはプールの上からジンベイを見ていたけど、今度は水中を泳ぐジンベイをじっくりと眺める。 ずっとジンベイを眺めてたら、業を煮やしたマコトに促されようやくその場を後にした。 今度こそ順番通り回るとそこには、アザラシ・シロクマ・ラッコ・セイウチ・ペンギンが愛くるしい姿でお客さんを楽しませている。 基本的にはイルカが1番なんだけど、やっぱりこうやって水族館に来るとこの子達は可愛いし癒されちゃうんだよね。 そこでも足を止めては、ガラスの中を行ったり来たりするシロクマやアザラシにカメラを向けた。 ラッコは頭に手をやりながらお昼寝してて、その姿は可愛いのなんのって。 その姿が誰かと被(かぶ)るんだけど、思い出せない。 ラッコを眺めながら首を傾(かし)げてその人物を思い出す。 「あっ!」 ようやく思い出して、思わず声を上げてしまった。 「萌香さんどうしたの?」 突然大声出した私にマコトがびっくりして訊いてくる。 「あのね、うちに入院してる患者さんで104歳の男性なんだけど、頭に手を置いてる姿がラッコとそっくりなんだよね。その患者さん、寝ててもいつも頭ペチペチ叩いてるんだよ」 「そうなんだ?」 「誰かに似てるなぁーって思ってたんだけど、あぁスッキリした」 マコトにそう説明する。 きっと、由希がこの場に居たら同じ事言うかもしれない。 それぐらい目の前のラッコがあまりにもソックリで思わず、ほっこりした気分になった。 セイウチも可愛いし、ペンギンのブースでは何種類のペンギンがヨチヨチ歩きで岩場を歩いたり、気持ち良さそうに泳いでいた。 「萌香さんコイツ見て」 マコトがそう言って私達の前にいた1羽のペンギンを指差した。 見るとそのペンギンは泳ごうとはせず、ただ水辺の岩場を行ったり来たりしていた。 でも目線の先は水なんだけど、一向に水の中へダイブする気配はない。 「あは。この子何がしたいんだろ?」 私達は目の前のペンギンの動向を見守った。 行ったり来たりの繰り返しで、ちょっと高めの場所をヨチヨチ・ペタペタにちょこんと乗った瞬間、こちらを見た。 その顔がドヤ顔で。 私もマコトも思わずそのドヤ顔にブハっと2人で吹き出してしまった。 「今、この子ドヤ顔だったよね?」 「結局、コイツ何がしたかったんだろ」
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