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「いいよ、乗ろう」
イルカの餌やりは出来なかったけど、せっかく来たんだからとマコトの誘いに応じる。
「コレどうする?」
マコトがビニールのポンチョの自販機を指差して訊いてきた。
濡れるのは嫌だけど、何回か前に来た時もこのビニールのポンチョを着なくてもそんなに濡れなかったのを思い出す。
「要らない」
そう言った。
マコトも私が着ないなら要らないと乗り場に向かった。
でも……。
私達のこの判断は間違えだったと、数分後に身をもって実感する。
平日という事もあって、6人乗りのライドにマコトと2人で間を空けて乗り込んだ。
激流で時折水しぶきは飛んでくる事はあってもそんなに濡れないけど、マコトとワーワー・キャーキャー言いながら楽しんでいた。
後半に差し掛かって直ぐ左側の壁近くの窪みに押し流されその勢いでコースに戻ろうとするんだけど、後から来るライドに押されてまた元の窪みに戻ってしまう。
何回かその繰り返しで気付いたら5~6台のライドに追い抜かれ、後から乗った他の人達を見送った。
「前来た時はこんなに時間掛からなかったのに、ちょっと面白い」
「俺も」
しかも壁には【必ず生きて帰れる】みたいな文字もあって、ちょっとした漂流をマコトと楽しみながらそう話していた。
やっとその漂流をコースから外れてちゃんとしたコースに戻った瞬間。
バッシャーン!!
「うわっ!?」
「キャーッ……!?」
Gが掛かったのか、大きな水しぶきを思いっきり被ってしまった。
漂流コースも初めてだったけどそれなりに面白かったし楽しんでたけど、これはさすがに想定外なんですけど。
顔も上着もずぶ濡れでビショビショだというのに、あまりにも可笑しくてマコトと顔合わせて大爆笑した。
そう言えば。
こんな風に心の底から笑ったのって、いつぶりだろ?
思い出そうとしても思い出せない。
特に、ここ最近は詩織さんとの一件があってからは楽しい事から目を背(そむ)けてたから。
職場で笑う事があっても、作り笑いで大声で笑ってなかった。
あ……っ!
もしかして!?
そこで初めて気付いた。
マコトがどうして今日私を誘ってくれたのか……。
私、マコトにまで気を遣わせちゃってるんだ。
そう思うと申し訳なさと同時に、それでも無理矢理外に連れ出してくれたマコトの優しさが有り難かった。
本当に楽しくて、何より久しぶりに心の底から笑う事が出来たから。
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