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変わらず一蹴。こいつは怖がるとかそういうのはないのだろうか。
「さあ、行きますよ兄さん」
「ああ、ちょっと待て」
とりあえず俺はいそいそとフォローに勤しむために、ビッグマンに近づく。ホント、君も苗字も覚えられてないのによく頑張るよな。するとその肩が、いつもみたいに落ちていなかった。
「なんで……」
プルプルと震えていた。握る拳も赤くなっていた。こういう奴を俺はよく知っている。キレる寸前である。
「なんで俺じゃ駄目なんだ!」
「お、おい」
慌てて制服を掴もうとするが届かない。ビッグマンは拳を振り上げながら、怒りの形相で姫花に向かって突進する。
「危ない!」
誰かが叫ぶ。俺は次の光景を予想して目に手を当てた。
ズシン! と何か叩きつけられる音がした。恐る恐る目を開けると、ビッグマンが地面に転がっていた。気絶している。
その横で、姫花は何事もなかったように制服についた汚れを落としていた。
最後にパンパンと手を二回叩き姫花が抑揚もなく言った。
「少しロスしてしまいました兄さん。急ぎましょう」
楠野姫花。柔道六段、合気道四段、空手三段。得意技は背負い投げである。
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