プロローグ

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携帯端末を媒介とし、身体に全く負荷を掛けることなく、プレイヤーに常人ならざる移動速度を可能とさせる、そのシステム。 通称『ブーストシステム』。 これこそが、このゲーム最大のミソだ。 このシステム、最初こそは身体の不自由な老人や障害を持った者のためのアプリケーションだった。 肉体というのはとどのつまり、脳からの命令を受け、電子信号で動くだけのタンパク質の塊だ。 その電子信号を、通常の神経とは異なるルートで生体電流を流し込むことにより、筋力の制御を試みる、というのが当初の目論みであった。 が、実験は思わぬ結果を生んだ。 言い換えればそれは嬉しい誤算とでも言おうか。 筋力制御による介護アプリをダウンロードした者は、あろうことか自分の身体でスポーツを楽しめるまでに運動能力の回復を可能としたのだ。 いや、回復と言えばまだ聞こえは良い。それはもはや、倍増の域にすら達していた。 アプリの配信から間もなくして、各地で異端とも呼べる運動能力を持ったスポーツ選手が大量発生する事件が起こった。   端的に言って、強過ぎたのだ。短距離走のギネス記録をバック走で塗り替えた者、プロ野球界に突如として現れ、セーフティバントでランニングホームランを決めた老人などは今でも記憶に新しい。 そんなわけで一度は廃止されたそのシステムだが、これに目をつけたのが大手ゲーム会社、アークだった。
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