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モーダーの村の外れ。モタとチーヌはギータの墓を作った。日は暮れて暗闇の中、その近くで二人は焚き火をしてただ時の過ぎるのを待っていた。ナタに続いてギータを失ったモタは、兄弟の思い出が色濃く残る村に入るのを躊躇った。いつまでも呆けてはいられないが、少しだけ時間が欲しかった。モーダーの村の村人たちは時々様子を伺いに来て、食料や飲み物を運んでくれる。
ちらちらと燃える炎を眺めるモタの目は涙で湿っている。チーヌもただ黙って側にいた。モタが何も言わないならば、自らも何も言わない。船団の主だとしても、それはモーダーの三人が自らを育ててくれたからだ。モタが何かを言い出すまで言葉は必要がない。
チーヌは黙って焚き火に小枝を入れる。夜は更に更けていき梟の声が聞こえる。生まれ育った土地にいたときは、夜の梟の声が怖ろしくもあったが、今では命の奪い合いの日々。梟の声など怖れるに足りない。
「なぁチーヌ」
眠りにもつかず、ただ火を眺めていたモタがやっと口を開く。
「何?」
余計なことは言うなとチーヌは自制する。
「ギータの金刀、お前にやる……」
モタは側に置いていたギータの愛刀金刀を手に取る。
「チーヌの落魂鐘は便利だけど、あれは武器っていうより兵器だ……。チーヌが金刀を使ってくれたほうがギータも喜ぶ……。身近な誰かを守るには手軽な武器も必要だからさ……」
チーヌの胸が痛む。例え、近接の戦闘で扱える武器があってもチーヌにギータは救えなかった。子供たちを人質に取られた時点で負けは決まっていた。スミスよりギータの技量が遥か上であったのにも関わらずギータは自らの命を差し出したのだ。
「ギータは……優しかった……」
チーヌの目にも涙が溢れる。ギータの命が刈り取られてから見せなかった涙が今流れた。
「知ってるよ。三千年一緒にいたんだ。チーヌとトトに毎日稽古をつけていたギータが優しくない訳ないだろ。ギータがいないと牛乳余っちまうな……」
ホットミルクが好きだったギータはもういない。
「チーヌ、これからちゃんとモーダーやれよ。ナタもギータもチーヌをモーダーの名を名乗らせていいって認めたんだから。俺はさ……、この戦争が終わったら旅に出るよ。ナタやギータと一緒に見た世界を一人で見て回るよ。だからチーヌ、モーダーの村を頼むな……。死んだりするんじゃねぇぞ……」
モタはチーヌの返事も聞かず横になる。
「寝るな……。チーヌも寝とけ。起きたらみんなにギータが死んだの伝えなきゃなんないんだ。しっかり休めよ。火は精霊に任せろ……」
「うん。おやすみモタ……」
チーヌも横になる。モタから受け取った金刀を横に置いて。金刀はしまうこともできる。ただ今はギータの存在した証を側に置いて置きたかった。
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