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朝が来る。モタは眠れぬ夜を過ごしながらギータの温もりをその目に見る。チーヌは悲しみの余り、それに気付いていない。大精霊となったギータはずっとモタの側にいた。
「ギータもなっちまったな……。輪廻から抜けてナタと同じように俺を守ろうとする。もう生まれ変わっても兄弟にもなれやしない……。悲しいよ……」
独り言のように横になったまま朝焼けを眺めながら呟く。側にいる大精霊のナタとギータ。二人とも微笑みをたたえている。もう言葉を発することもできない。できるのは精神の繋がりの意思の疎通。モタの言葉は二人には届くのに二人の言葉はモタには届かない。
チーヌは静かに寝息を立てている。深い眠りに落ちているのだろう。ギータを救えなかったといえ、スミスとやり合ったのだ。その緊張は極度のものだろう。
モタはむくりと起きて、火を起こす。夜もモーダーの村人たちが心配したのか何度も確認しに来ていた。食料も水も薪も近場に置いてそっと帰っていく。今まで守り通した村。ギータが命を差し出して守った子供たちのいる村。ただ、モタにはその優しさが辛かった。恨むことができたならば、どんなに葛藤せずに済んだか。小さな村とは言っても、楽園と呼ばれるほどに穏やかな村なのだ。モーダーの賢者三人で長きに渡って作り上げた楽園。それを共に作り上げた兄弟は、人としての輪廻を捨てた。
「はは……。ナタとギータは俺より先に死ぬって分かってたけど参っちまう……。こんなにキツいなんてな……」
火を見ながら目元を隠す。どうしても泣き足りない。チーヌの身体がもぞもぞと動く。モタはローブの袖で涙を拭う。お湯を沸かしスープを作る。村人たちが置いていってくれた鮎も串に刺して火にかける。
ちらちらと蠢く火を見ながら、ただ時間が過ぎるのを待った。チーヌが起きて朝食を取ったらそれぞれの船団に戻る。もう余裕はない。全力を持って知恵を働かせなければまた犠牲者が出る。モタにとっても最も辛い犠牲者を出したあとだ。決意も自ずと強くなる。
まだ起きないチーヌを見やる。チーヌはころんとこちらに寝返りを打つ。まだ眠りの中にいるチーヌの頬に涙のあとがある。寝ながら泣いていたのだろう。
あと少しだけ。モタはまだチーヌを起こさないことを決めた。チーヌは起きたら船団の長としての役目がある。今だけは許そう。太陽は静かに昇る。
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