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もぞりとチーヌの身体が動く。目を開けたチーヌが見たものは夜明けを眺めるモタだった。
「モタ……」
呼んでみても何を言えばいいか分からない。
「チーヌ食え」
モタは向き直りチーヌに器を差し出す。
「ありがとう……」
それ以上、何も言うこともなく黙々と食事を終える。
「さあ行くか。チーヌも戻れ。俺んとこはリザがいるから進んでいくけど、チーヌんとこはチーヌがいなきゃ始まらない。お前は大将なんだから」
立ち上がったモタは背を伸ばす。
「気張れよ」
チーヌの顔は上がらない。
「本当に僕にできるの? ギータが参謀につくから僕でも良かったんじゃないの? ギータがいない今じゃ……」
「俺はな、チーヌはギータがいなくても軍を率いられると思ったからチーヌを指名したんだ。その時が来るのが少しだけ早かっただけだ。お前はできるよ。じゃあな」
モタは言うだけ言ってクルスを唱え風に亡ぼされるように消えていった。
「何だよ……。勝手言って……」
チーヌも目の前の火を消してからクルスを唱える。風のように亡ぼされるように消えてライたちの待つ船団に帰った。
「チーヌ! 大丈夫だったか!?」
真っ先に甲板にいたライが声をかけてくる。ムトもムエルもそこにいた。顔色で分かった。眠らずに待っていたと。
「モーダーの村は無事。でもギータが死んだ……」
「ギータが……」
ライの視線が下を向く。
「それでもお主が生きていって良かった。これからの作戦を練ろう」
ムトがすぐに提案をする。
「悲しむ時間はないのかよ!?」
ムエルが叫んだ。
「いいんだ。僕らはやらなきゃならないことがある。ギータがいないこの船団じゃムトが筆頭軍師だ。ムトは何にも間違っていない。ムエルもライも理解して」
チーヌの言葉にライもムエルも反論はしない。
「ギータと練った作戦通り、僕らはモーダーの村の西から大大陸に上陸して陸路を進む。作戦の最優先は戦力の強化だ。いいね?」
チーヌの言葉に力強さを感じる。
「チーヌ、あんまり気負うなよ?」
ライが心配そうに声をかけたがチーヌは笑う。
「大丈夫。ライたちは少し休みなよ。僕は充分休んだ。大大陸につくまで僕が船団見てるから」
まるで大将のようだ。ライはそう感じた。
「そうする。ムト、ムエル、休もう」
「しかし……」
「ムエル、大将はチーヌなのだよ。命令は聞くべきだよ」
ムトがムエルの背を押す。ムエルも大人しく引き下がる。
これからだ。僕の闘いはこれからだ。チーヌは甲板の上で空を睨んだ。
「ギータに恥ずかしく姿見せないようにならなきゃね」
船旅は続く。
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