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玉座の間をあとにすると城内が騒がしくなっている。
「逃げろ! 同盟が攻めてきたら俺らは逃げられん!」
我先にと城外に向かう人々。その人らは悪魔皇帝の威光を背に散々、人を嬲り食ってきたものたち。どうやら罪の意識はあるらしい。
スミスは相手にせずに自室に向かう。スミスとて、悪魔皇帝が負けるとは思っていないが同盟が負けるとは思っていない。世論は同盟に向いている。あちらこちらの情報を仕入れているが、人食が当たり前な世になったと思っていたものが実はそうではなかった。世を良くしようという志を持ったものは少なからずいて、そのほとんどは同盟に組みしている。
部屋に戻ったスミスは乱暴に椅子に座る。
「情けない……」
世は終末に向かうと信じて悪魔皇帝に手を貸した己が恨めしい。同盟は妻子を連れ去ったが、それは間違いなく己の立ち位置を変えてくれるためのものだったはず。力はあったはずだ。志もあったはずだ。それでも諦めてただ生き延びることを選んだ己の不甲斐なさに腹が立つ。
次に同盟と対峙するとき、それは最後の決戦を意味する。今更生き延びようとは思わないが、短慮であったと悔いるしかない。モタはスミスを許したりしないだろう。許されては困る。スミス自身も悪魔皇帝に次ぐ罪人なのだ。
古来から世を救うのは選ばれた十三人と言われてきた。モーダーの三人。七人の賢者。三人の英雄。
モーダーの二人は殺した。七人の賢者とは、トロンと、同盟側にいるチーヌという子供とトトという子供だ。他の四人はスミスが殺した。すでに悪魔皇帝の食事と化した。三人の英雄とは、同盟の総大将のリザという女の子とライという若者。残りの一人はスミス自身だ。
自らの背に宿命を背負っているのに、スミスはそれに背いた。宿命を背負う者を六人殺して、無事な未来などない。
「……無理かも知れないが、誇り高く死のう」
その呟きは誰に届くこともない。
その世、悪魔皇帝の城に悲鳴がいくつも轟いた。何があったかスミスは確認もしなかった。おそらく逃げようとした者を悪魔皇帝が食い殺しているのだ。最近は、人肉を調理することを好んでいたがもともとは人の悲鳴を聞きながら食い千切るのが悪魔皇帝の楽しみなのだ。スミスはただ耳を塞ぐ。逃げ場などどこにもない。死ぬのならば戦場で。その想いだけがスミスの心を落ち着ける。それまでは死ぬわけにはいかない。どれほどの犠牲が出ようと今は無力でしかないのだ。
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