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「私……やっぱり厄娘なのでしょうか……」
歳を気にせず飲んだワインが効いたのか、嫌なことを思い出したせいか頭がクラクラする。
時刻はすっかり夕方を迎えていた。神機使いに与えられた休憩時間は三時間。猶予を既に一時間は過ぎている。
「あぁ……いけない……」
重い腰をゆっくりと上げて扉の方を振り向くと、夕日に照らされた人影が一つ。
その人影はマリオンが今最も謝りたく、最も会いたい人物の形をしていた。
「あぁ……私……その……」
人影に手を差し伸べるが無情にも人影は風に流されるように消えてゆく。
ワインと体調不良からか、それとも罪悪感からかは定かではないが、自分が見ていたものが幻覚だとわかるのには時間はかからなかった。
ガクリと膝をつくと再び人影が現れる。
「やっぱここか……一時間半オーバー。まったく、歩くのも面倒だってのに」
夕日に似た色の髪にヘッドフォンをかけてだるそうに声をかけるのはレオン・ハレヴィ。マリオンが所属する第三部隊の隊長だ。
「すみません……つい……」
「さっさと帰るぞ……始末書とかもあるし、はぁ……めんどくせ……」
レオンは極度の面倒くさがりで何かあればめんどくせを振りまいている。任務の報告書すら破くほどの彼が隊長になったのはアルトの推薦だった。
「ふふ……そんなに面倒がっていたら支部長に色々面倒な仕事回されちゃいますよ?」
「うっせ……職務怠慢はお前も同じだろ」
「ですね」
なぜだろう。レオンと、他の神機使いと話すと心が洗われる気分になる。
少なくとも彼らは私を邪魔者扱いしない。必要なのかはわからないが間違いなくあそこは私の居場所。
ならば今度こそ絶ちきろう。自分に付きまとう災厄を。そして今度は幸せを運ぶ器になろう。
「おい急げ。二時間以上オーバーしたら書類増えるんだからな?」
私は厄娘だった女じゃない。マリオン・ノイエという一人のフォルトゥナ人だ。
「これが私にできる罪滅ぼし……ですよね。おじさん……ヤクモさん」
マリオンは過去の因縁を捨て去るように大切なグラスを割ると、新しいグラスをいつもの席に置いた。
「今度はお父さんやお姉ちゃんじゃなく、私がカクテルを入れてあげますね。私たち専用のグラスに」
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