プロローグ

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むせかえるような草の匂い。 この匂いは、嫌いじゃない。 遠い記憶の中に、こちらを見ながら大きく手を振る人がいる。 私の頬に手を当て頭をなでながら、優しい笑顔で繰り返すいつもの言霊。 (お前は、神様がくれた天からの贈り物なんだよ) 頬に当たる手のひらが、心地いい。 フワフワした意識の中で、大切な人の腕にふれる。 (お父さん・・・) 途端に、まわりの景色がかすみはじめる。 と同時に、足をつけていた地面が崩れ、徐々に身体が落ちていく感覚。 思わず掴むものを探すように手を振り回したが、それも虚しいことだった。 そのまま、暗く深い底へ沈んでいく。 ゆっくりと。
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