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一人と一匹は、ひたすら歩く。
これだけ歩いても、誰一人としてすれ違わない。
明らかに、おかしい。
肩にかけている荷物が、しだいに重く感じてくる。
徐々に、木々の間に刻まれた陰影がやたらと目立つようになった。
吹く風は暖かいはずなのに、背筋は薄ら寒い。
いつの間にか四方を木に囲まれ、どちらから歩いてきたのかすら分からなくなってしまった。
それに気付いた桜は、立ち止まって連れに声をかけようとした。
その時。
マロが四つ足を突っ張り、うなり声をあげはじめた。
「えっ、どうしたの?」
突然の事に驚いた桜は、愛犬が睨み付けている先にじっと目を凝らすが、そこには何もないようにみえる。
「グルルルルルルゥゥ!」
しかし、マロは桜を庇うように前にまわりこみ、さらに激しくうなり続ける。
「マロ、落ち着いて・・・。」
自分を守るその背中を撫でようと手を伸ばした時、ふと気配がした。
ゆっくりと顔を上げ、木々の奥に目をむけてみる。
そこには、先程までなかった灰色の塊があった。
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