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その物体がゆっくりと動き、這ったままこちらに向かってくるのがわかる。
(あれは・・・一体・・・なに?)
マロが毛を逆立てながら、グイグイと主人を後ろへ下がらせるように押し出す。
しかし、桜の足は凍り付いたように地面から離れない。
少しずつ、確実に近付いてくるそれの輪郭がわかってくる。
熊でもなく、狼でもない。
全身を羽毛のようなもので包まれた生き物が、赤い目を爛々と光らせて草の間からこちらを見ている。
気付かれているとわかったのか、這うのを止めスピードを上げてこちらに向かってきた。
分かっていても、桜はそこから動くことも出来ず、恐怖で歯と肌を小刻みに震わす。
やがて、ほんの十数メートル先まできたそれは、二本足で立ち上がった。
2メートルはあるだろうか。
秘かにひらいた赤い口からは鋭い牙がのぞき、糸をひいたように唾液が滴りおちる。
「ウゥゥゥ―――――ッ、ガゥッガウッッッ!」
マロが威嚇するように吠えるが、全く相手は怯まない。
桜は完全に放心状態でたちつくしていた。
吠える声も耳にはいらず、口は渇き冷や汗が全身から吹き出る。
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