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「ブルォォォ――――ッッ!」
咆哮が森に木霊し、地鳴りとなった。
周りの音が、一斉になくなる。
聞くものを震え上がらせ、硬直させる音。
しかし、桜にはそれが逆に功を奏した。
頭から身体に、危険という赤信号がいきわたる。
ハシレ、ニゲロ、と。
「マロ、こいっ!」
向きをかえ、一気に駆け出す。
ガクガクする膝に力を入れ、足を前へ前へと押し出す。
マロも、その後に従った。
あれが何なのか、捕まればどうなるのかなど、考える暇もない。
あの熊狼から離れるため、枯れ葉と小枝を踏み散らしてとにかく走った。
しかし、あっという間に距離をつめられる。
気持ちに身体がついていかず、焦りが足をもつれさせ、桜は前のめりに思いっきり倒れた。
(しまっ・・・・っ!)
咄嗟に身体を起こして振り返ると、今まさに鋭い爪が目の前に振り下ろされようとしていた。
自分の無力さに唇をかみしめ、目を閉じる。
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