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「あぶっっ!!」
幹にしがみつきながら覆い茂った葉の隙間から下を覗くと、爛々と光る紅い目が確実に桜をとらえていた。
熊狼が木に鋭い爪をたて、こちらへ登ってくる。
「ひっっ・・・」
熱を持っていた身体が、一気に冷える。
決して速くないが確実なスピードで獲物に近付いてくるそれは、気が付くと固まっている桜の足元まで手を伸ばしていた。
(・・・動け・・・動けっっ)
震える足で不安定な枝の上に立ち、上へ上へとあがるしかない。
しかし、それもすぐ限界がきた。
頭上の腕の太さくらいの枝を掴むと、ミシリと音をたてて垂れ下がる。
息は落ち着くどころか、上がる一方だ。
吸っているのに、酸素が入ってくる気がしない。
(どうしたら・・・どうしたら!)
駄目もとで飛び降りるしかないのか?
この高さで?
もし、足でも挫いたら?
いや、挫くどころか折れたら?
「フッッフッッ・・・」
生暖かい息を、足下で感じた。
熊狼と桜との距離が、後数センチとなる。
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