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桜は、無意識に胸の御守り袋を握り締めた。
その瞬間、黒い塊が灰色の巨大な背中に飛び掛かった。
「グギャァァァ!!」
木々が震えるような声をあげ、熊狼は片手を背中にまわし振りまわすが、全く届かない。
とうとう、もう片方も木から外し振りまわしたため、そのまま背中から地面に音をたてて落ちる。
それと同時に桜は足を踏み外したが、すんでのところで一つ下の枝を掴み、落下を免れる。
土煙があがり、一瞬辺りが茶色く濁る。
(・・・マロ・・・?)
もしかして、追いかけてきたのだろうか?
だが、視界がクリアになったとき、桜が見たのはマロではなく真っ黒な生物だった。
大きさはマロよりひとまわり大きいが、犬ではない。
揺れる葉から見え隠れするその姿は、どう見てもネコ科だ。
長い尻尾と黒い毛を逆立てて身体をさらに大きく見せ、熊狼を威嚇する。
体勢を立て直した熊狼は、立つのを止めて四つ足で前屈みになる。
空気がピンと張り詰め、キーンと耳鳴りが聞こえるような気がした。
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