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学校に向かういつもの道を、彼女はジャージ姿で歩いていた。
緒方 桜、高校3年生。
これから、高校生活最後の部活の強化合宿だ。
気紛れに入った部活も、あっという間に来月の試合で引退となる。
バドミントンのラケットを肩に掛け、鼻歌まじりに歩を進める。
少しくせっけのあるショートカットの髪からのぞく、大きな瞳。
まだ少し幼さを残したその表情が笑顔でほころぶと、片方だけえくぼができる。
母の久子が言うには、母方の祖母から受け継いだらしい。
スラリと伸びた身体を、黒に赤のサイドラインがついたジャージが、さらにしめてみせる。
「さーくらーっ!」
ポンと肩をたたかれて振り向くと、恵子が立っていた。
彼女とは、幼稚園時代からの幼馴染みであり親友で、唯一の家族ぐるみのお付き合いだ。
小さい頃から世間というものを少なからず味わってきた桜には、かけがえのない存在だった。
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