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グルグルと頭の中で考え事をしながら、思わずいつも首からかけているお守り袋をギュッと握り締めた。
そう、おそらくこんな機会はもうない。
「後悔しそうだからね。」
「後悔?」
「うん。ほら、私卒業したら就職するから。」
母と二人暮しの桜は、大学進学ではなく就職の道を選んだ。
運良く、母の仕事先の薦めで営業会社に内定をもらっている。
なによりも、早く母の負担を減らしてあげたかった。
桜は、思う。
身内の甘さでもなんでもなく、母は凄いと。
父がいなくなったときも、決して人前では涙を見せず気丈にふるまい、当時まだ幼かった私を育ててくれた。
変わらずゆったりとした笑みをうかべ、父と同じ言葉を言う。
お前は、天からの贈り物だと。
もしかして母は、父がいなくなるのを知っていたんじゃないか。
でなければ、大切な人がいきなりいなくなるなんて、私だったら耐えられない。
(知っていても、嫌だけど。)
桜は、恵子にニッと笑いかけながら、ラケットと同じく肩にある合宿用バッグをかけなおした。
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