202号室【お迎えにまいりました】

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「何だよ。俺が生きてて嬉しくないのかよ」 婆さんは自分の肩をポンポン叩きながら、面倒くさそうに言った。 「ああ、よかったよ。おかげで私が不幸にならずにすんだよ」 「どういう意味だ?」 婆さんは振り向きざまにニヤリと笑い、俺に言った。 「さっき死神には子どもがいると言ったね」 「ああ」 「お前さんがあの死神と契約を結んでいたら、死神はノルマ達成で今月の給料から倍になる。そしたら滞納していた家賃を払うことが出来て、さらに別れた旦那との間にできた二人の子どもと再び一緒に住める約束をしていたのさ」 「子どもと住む事は、『俺の命と引き換えに』、って事を除けばいい話じゃないか」 「ところが、その二人の子どもってのが厄介なんだよ」 「まさか、超ヤンキーとか?」 「そんな可愛らしいもんじゃない。その子どもってのは、『疫病神』と『貧乏神』なんだよ」 「って事は……」 「そう。二人がこのアパートに住むようになれば、お前さんも含めて、みんな貧乏と病気が一度に降りかかる事になる。私は、せっかく貯めたお金も、健康も失いたくないからね」 婆さんは歯をむき出して笑っていた。 死神に疫病神と貧乏神……何という恐ろしい親子がいたものだ。 ただ、恵美婆さんは、本心から俺の心配をしていた訳じゃなかった事にも今の話で悟った。 『神の力』と『人間の本心』、どっちがおそろしいか……まあ、それはまた別の話。 何はともあれ、生きててよかった……
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