殺し屋、紅憐鬼の誕生

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何日、どれ程の距離を、移動しただろうか? ようやくたどり着いたのは自然の中何もない田舎で育った少女にとっては 見たこともない場所。 建物がたくさんあり、人はそれ以上にたくさんいて、賑わう街。 将軍のお膝元、江戸だった。 そして、さらに江戸の街を歩いて見えてきたのは、他の建物とは比べ物にならないほど大きな建物、江城だった。 そして、城内に通され結構な広さのとある一室に案内されそこには年配の男がいた。 座るよう促され彼女は男の正面に座る。 彼女をここに連れてきた使いの二人は、少し下がって男の隣に。 「どうだ?」 「特に問題ありません。」 「そうか。……お主、名前は?」 「…………」 名………前……? 「…………。」 「娘、ご家老様がお聞きだ。答えぬか。」 「……………。」 名前………?? 「……『化け……物』。」 「……化け物?それは、お主の名ではなかろう?お主の名を聞いておるのだ。」 「…………。」 私の名前を聞くの? 誰も呼んでくれない名を。 誰も呼んでくれなかった。 誰も名前など呼んでくれなかったのに。 両親でさえ、呼んでくれなかったのに。 今まで『化け物』としか呼ばれなかったのに。 もう捨てられた名前。 その名をつけられた彼女でさえ忘れてしまった名前。 「……………ない……。」 「ん?」 「……分から……ない……。」 「分からぬとはどういうことだ?」 「名前、分からない……。」 「………そうか……。」 名前を知らない理由を彼は聞かなかった。彼女の力を目的にここに連れてきた彼には、彼女がどんな扱いを受けてきたかなど、容易に想像できたのだ。
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