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自転車の下敷きになった左脚を、痛みに耐えながら引きずり出す。 痛い事には変わりないが、骨は折れていないようだった。
一、二メートル後ろで少年が転がっている。 尻をさすりながら立ち上がった彼は、「恋さん」と呼び掛けた。
「大丈夫ですか、恋さん。」
座り込んでいる恋に少年がもう一度呼び掛ける。 少年は荷台から飛び降り、自転車を歩道側に引き倒したのだ。
車に跳ねられたり、轢かれるよりは致死率が低いと咄嗟に判断した上での行動だった。
「ん、いちおう。」
左膝に出来た擦り傷に手を当てながら恋が答える。 少年は安堵しながら自転車を起こした。
「そう言えばあの人は?」
少年が恋に問う。 恋は辺りを見回して、「もういない」と答えた。
「ま、こんな人の多い所で鎌持って子供追い掛けてりゃどうなるかぐらい分かるじゃん?」
彼らにとって、長期拘束は命取りである。 つまり、逮捕されてしまえば下手をすればその日の内に死んでしまうのだ。
それだけは避けたいだろう、と言うのが恋の見解だった。
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