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――夜桜が舞う。 公園の真ん中、少女はコートの中からガラスの小瓶を取り出すと、桜の樹に向けた。
「……おいで。」
舞い散る花びらに混じって、何やらホログラムのように現実味のない透き通る程純白な羽が、少女の持つ小瓶の口へ吸い込まれる。 羽が瓶の中で仄かな光になったのを見て、少女は即座にコルクで栓をした。
「あと……何枚。 あと幾つで、私……。」
少女が誰ともなく呟いた瞬間、背後で砂利を踏みしめた音が響いた。 少女は緊迫の面持ちで振り返る。
「あ。」
そう漏らして唖然としている少年を睨み付け、少女は即座に逃げ出した。
残された少年は彼女の去っていった方角を呆然と見つめ続ける。
「今の、は……」
四月の末。 その一瞬の出会いだけで、少年は少女に恋をした。 否、この時点ではまだ恋ではなかったかも知れない。 しかし、少年の心は彼女に釘付けになったのだ。
ここからゲームは急速に展開する――
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