ep.1 出会い

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 少年と少女の出会いから翌日の事である。 少年は自転車で町中を走り回っていた。 あの少女を探す為に。  坂を息を切らしながら上り、風を感じつつ下り。 薄暗い路地を通り抜け、植えられたばかりの苗が揺れる初々しい田園の真ん中に通る道を走り抜ける。  町中走り回った彼が最後に行き着いたのは、山の上にある神社だった。 中腹までは自転車で登る事が出来たが、そこから先は階段である。 切らした息を整えて、自転車に鍵を掛けると少年は古ぼけた、百を優に超える石段を上り始めた。  自分が何故ここまでしてあの少女を探すのかはまだ理解出来ない。 ただ、少年は、また彼女に出会いたかったのだ。 出会って何をするのか、などは考えていない。 ただ、ただ。 彼は彼女をもう一度だけでも見たかったのだ。  百三十段程上ると頂上が見えて来る。 この町一番の山桜が少年を待ち構えていた。 ――後、十数段。 少年は逸る心を抑え切れず、走って石段を上り切った。  山桜が労りの吹雪を散らす。 上り切ったその瞬間までは確かに希望に満ち溢れていた少年の目は、直ぐに失望感を宿していた。 そこに彼女はいなかったのである。
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