壱 白龍堂

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 そして、白龍の御力の一節を、或いは呪いと謂った方のが正しいかも識れない、たゞの人が触れてはならぬ能才と定られた厄と荒涼とした託宣とを贈られた二人の童が、お堂に足を践み入れる。  一人は白龍に奉ずられた犠を裹む裳束の如く白き、ほのめく燐の如く白き、雪の如く白き童女。  しゝ思う獅子の嘆息のように温く、嬌態を見せた女妖の蠢く舌のように温い風に、恋と呪の薫を漂わせながら黒い華環が妖しくはためく。それは御山の黒闇よりも黒い毛。龍の垂らした毒と重なった血の業から生まれた黒い毛だ。能く伸びた睫毛の翳りの中に、凛と泛び上がった青の瞳は白龍の御言葉を預かるさにはの証だと聞く。能く見れば、確かにその瞳はこの世ならざるものの瞳に見えた。  この童女は、雪乃の御子なのだ。  もう一人。童らしからぬ、さも現世の有らゆる患苦を識り、人間と謂う迂愚な種を見下し、普く智識を垣間見たような、空の瞳をした嫌な童。  風にはためく雪乃の黒の毛が童の頬に触れた。而して童はしかつめらしい面のまま、毛を払おうともしない。その黒い葦簀の間から覗く瞳は、きっと現世よりももっと深くに有る闇を見ているのだ。  龍間の嗣となる童。その瞳に這の白龍堂はどう写ったのか。たゞたゞ風だけが、瞳にかゝった黒い毛を揺らしていた。      
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