プロローグ

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「えーと、この問題を…今日は9日だから9番!如月、如月音夜(きさらぎ おとや)!」 先生がこちらに向かって日本風の手招きをする。(外国でそれをやると嫌われるから気を付けろよ?)俺は、その仕草につられるように立ち上がり、黒板に書かれた問題を解いていく。…少し時間がかかったが、解き終わった。 「よし、じゃあ席に戻れ。」 その言葉に頷くと、先生に軽く礼をして小走りに席へと戻る。俺が席に着いたのを見ると、先生が口を開いて問題についての解説を始めた。 「この計算式は………で、………なので…」 決して俺が話を聞いていないわけではない。分からないのだ。先生の声は最初から聞こえていなかった。原因は、先生の口が俺の席から見えなくなったから。 「…だから、この答えになる。如月、正解だ。」 どうやら合っていたようだ。俺の文字に大きく赤丸が書かれる。次の問題、隣の奴が当てられ、前へ。その時は名前を呼ぶだけで、手招きはしない。 なぜなら、世間一般に、俺は耳が聞こえないと知らせているから。その証明にと身に着けているヘッドホンは、体育の時でも外される事はない。普段、このヘッドホンは外にもれないギリギリの大きい音で外の音を遮断し、耳が聞こえないという設定を堅持し続けている。最近は、ヘッドホンの下に耳栓も追加で付け、外界の音は全く聞こえない。 授業が終わる時間になった。鐘の音は聞こえないが、周りの人が立ち上がったので俺も立ち上がり、礼。次の授業の準備をする。
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