プロローグ

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学校を出ると、俺はヘッドホンに繋いだ音楽プレイヤーの音量を上げた。今や、ヘッドホンから漏れる音で普通に音楽を楽しめる程の大きな音になっている。俺は主に歌声の無い音楽を流しているが、最近ネットで見つけたバーチャルボーカルソフトを使った音楽も時々混じる。…意味のある言葉を聞くのもいいと思う。 俺はちょっとだけ人の声が聞きたくて、一旦音楽プレイヤーを止めた。今いる場所は緑あふれる公園で、人が少なくてちょうどいい。俺はベンチに座って目を閉じた。 「ね!今度は鬼ごっこしよ!」 『めんどくさいなぁ…なんで妹の世話なんかしなきゃいけないんだろ…わたしだって、やりたい事あるのに!』 「本当!?やったぁー!」 『それより、早く家に帰ってゲームしたい!お母さんはなんで外で遊びなさいっていうんだろ?』 …これだから嫌なんだ。どんなに小さな子どもだって、毎回2つの言葉を同時に発する。声帯はそれができないと分かっているから、一つは幻聴。更に、相手に聞かれたら即仲違いになること必至の方が本音。 …これが、俺の耳が聞こえないという設定を作り出した原因。極度の聴覚の異常発達により、普通に発した音の振動を細部まで聞き取ってしまい、その声に隠された本音が聞こえてしまうというもの。 母親がそれを知った時、俺を嘘発見器のように使い始めた。俺には、母親の心だって丸見えなのに。…それを言ったら母親は怒りに我を忘れ、父親が仕事から帰ってきて止めるまで俺を殴るのをやめなかった。 「あんたみたいな化物は、この世の中にいちゃいけない!」 『あんたみたいな化物は、この世の中にいちゃいけない!』 その時聞いた声は、俺が始めて聞いた、本音が出た瞬間だった。 それからは、俺はどこにいても音楽プレイヤーとヘッドホンを外さない。外さなくても、普通の人並みに聞こえるし、音を流せば声を完全に聞こえなくすることもできる。それでも、授業中などはヘッドホンを外さないといろいろと言われるため、耳が聞こえないという設定を作った。
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