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「私、家族というものが楽しみです。未知の領域に本日踏み込むのです」
「なんだそれ。まるで家族を知らないみたいな……」
まさか、こいつ家族が……。
「知りません。昔いたはずですが、思い出せないのです。あるときから記憶がないのです」
え……。
俺を撫でる風がいつになく冷たく感じた。相変わらず表情は一つも変えようとしないけれど、悲しいって、羨ましいって、俺にはそう見えたんだ。
俺って、幸せなのかなぁ。引っ越してくる前にいた友達と別れるとき、俺ばかりなんで不幸になんなきゃいけねぇんだって、そう思った。
でも、俺にはちゃんと両親がいて、入学早々友達もできて、身体に障害もないし、やろうと思えばなんだってできる。
それって十分幸せなのかもな。
だから、行こうか。
「なぜ、何も言わないで私を置いていこうとしてるのですか。私を家に……」
「誰が置いていくって?ほら、着いてきなよ」
「ふへ?」
「なぁに不思議がってんだよ。お望み通り俺の家に招待してやろうって言ってんだよ。早く来いよ、ソラ」
こいつには口うるさい親父とか、友達とかって多分わからないんだよな。何が幸せかってことさえ。
だから、だから俺が教えてやんよ。ソラが自由に感情を持って、そんで心底から笑えるように。
「待ちなさい。カ、カ、カ……」
「ん?」
「カイト!!」
ふっ、カイト…か。
まさかこんなにも早く呼んでくれるとはな。
まだ、知らないだけでソラにも人間っぽいとこがあるのかもしれない。
「そういやさっきの、ふへ?ってなんだよ。宇宙語か?」
「人をからかうのは良くないのです……」
ソラが自由に笑える日がいつか、きっと来ますように。
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