3.朱浜事件

3/21
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/208ページ
「私、家族というものが楽しみです。未知の領域に本日踏み込むのです」 「なんだそれ。まるで家族を知らないみたいな……」 まさか、こいつ家族が……。 「知りません。昔いたはずですが、思い出せないのです。あるときから記憶がないのです」 え……。 俺を撫でる風がいつになく冷たく感じた。相変わらず表情は一つも変えようとしないけれど、悲しいって、羨ましいって、俺にはそう見えたんだ。 俺って、幸せなのかなぁ。引っ越してくる前にいた友達と別れるとき、俺ばかりなんで不幸になんなきゃいけねぇんだって、そう思った。 でも、俺にはちゃんと両親がいて、入学早々友達もできて、身体に障害もないし、やろうと思えばなんだってできる。 それって十分幸せなのかもな。 だから、行こうか。 「なぜ、何も言わないで私を置いていこうとしてるのですか。私を家に……」 「誰が置いていくって?ほら、着いてきなよ」 「ふへ?」 「なぁに不思議がってんだよ。お望み通り俺の家に招待してやろうって言ってんだよ。早く来いよ、ソラ」 こいつには口うるさい親父とか、友達とかって多分わからないんだよな。何が幸せかってことさえ。 だから、だから俺が教えてやんよ。ソラが自由に感情を持って、そんで心底から笑えるように。 「待ちなさい。カ、カ、カ……」 「ん?」 「カイト!!」 ふっ、カイト…か。 まさかこんなにも早く呼んでくれるとはな。 まだ、知らないだけでソラにも人間っぽいとこがあるのかもしれない。 「そういやさっきの、ふへ?ってなんだよ。宇宙語か?」 「人をからかうのは良くないのです……」 ソラが自由に笑える日がいつか、きっと来ますように。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!