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春、始まりの季節。
少し寒さが残り、桜はまだ咲かない。
今日という日に桜があればどんなに絵になっただろうか。
今日の俺には、目覚まし時計は必要なかった。昨日から不安というよりかは期待で頭が冴えてしまって、安眠はかなわなったから。
まだ、硬い制服の裾に腕を通す。
友達、できるかな?
この隣の市に一際目立つ建物、聖緑高校。略して聖高。
なんか、変換を間違えてしまったら放送禁止ワードになりそうな名前だけど、これがまた全国トップクラスのエリート校。
偏差値が70近くある化け物学校だ。
お前も頭がいいのかって?
そんなわけないだろ。
あんなところ選ばれた人間しか行けない。
俺が今日から通うのはこの谷岡市にある、黄鈴(オウリン)学園だ。
聖高のように学力が高いわけではないが、校舎も綺麗で比較的でかい高校。
俺は部屋を出る。身支度も万全。うん、抜け目はないはず。
トースターのチンと弾ける音が聞こえる。
朝ってやっぱ、パンだよな?
「あら、海ちゃん起きてきたのね」
「おはよー!海斗ぉ!」
キッチンでピンクと白のエプロンを着ているのが母さん。無駄に声がでかいのが親父。
ったく、親父。今日も朝から騒々しい。
「おはよー、母さん」
母さんにだけ返事をし、親父も座る食卓につく。
「息子よ。いつからパパに対してそんなにも冷たくなってしまったのだぁ?昔はお風呂も一緒に入ったではないか」
「俺にそんな記憶はない。それにあんたに対して冷たくなかったことなんてないだろ?」
「彼女でもできたか」
「なぜそういうことになるのかまったく俺には理解できない。それに入学式直前の一晩の間にできるわけもないだろ」
俺は父親というものを一生尊敬しない自信がある。
「男と女、一晩あれば何でもできる。
なあ、ちえさん」
「もお、拓郎さんったら」
「子供を目の前にしてそんな話をするじゃない」
母さんは最後にスクランブルエッグを持ってくると朝食が始まった。
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