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やっぱり少し寒い。
さて、どのクラスになるのかな。つっても朱浜家はこの4月に越してきたばかりだから、知っている人なんかいるはずもないけど。
人のあまり通らない路地を進んでいく。
学園までは歩いて15分といったところか。比較的近くて本当に助かる。
まだ裸の桜の木がポツポツと立ち並ぶ。
道はあらかじめ確認済みさ。
次の角を右に曲がるんだ。そして、次は……って
「はぁぁぁあ!?」
目の前の光景が飛び込んでくると同時に、俺は固く動きにくい制服で、しかも朝から全力で走らされることになった。
「おい!待て!はやまるんじゃねぇ!」
ついでに声も張らせやがった。
でもしょうがないだろう?
だって……
アパートのベランダの手すりの上に立って、今にも飛び降りそうな少女が目に入っちゃったんだから。
「おい!聞こえてんのか!?」
俺の声かけにやっと顔をこちらへ向けることで反応してくれた。
なんだ?この娘……
とても普通とはいえないし、髪の色に至っては白色の毛先だけ青みがかっているという意味のわからない遺伝子を持ってる女の子なのに、どうしてだろう。
なんか懐かしい……。
もちろん会ったことなんかない。忘れてるということはないだろう、一度この娘を見て覚えていられない人がいたら逆に教えてほしい。
まあそんなことは今はどうでもいい。とにかく止めさせなきゃ。
「は、話を聞こう。何か辛いことがあったのか?なんでも相談に乗ってやるからそんなことはやめろ」
「…………」
頼む。なんでもいいから喋ってくれ。話が何も進まねぇ。
しかし、事態はいとも簡単におさまった。少女は静かに足を手すりからベランダの底へと降ろしたのだ。
「はぁ……」
思わずため息。安堵、というよりは呆れていたほうが大きかっただろう。
よくわからないけど、取り敢えず一件落着だな。
けど、そうはいかなかった。
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