第一章・前編

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「やろー、どこに行きやがった! 卵パックの恨みぃー!」 道路もまともに舗装されていない山道に入ると、急に視界が悪くなる。 鬱蒼とした一面の竹藪と、左右にうねるようなカーブがしばらく続き、突き当たりの分かれ道に差し掛かったところでロボロボ団員の姿を見失ってしまった。 左右の道はどちらも車が通れないほど幅が狭くなり、いわゆる獣道と化している。 「どっちに行くか…よし、左だ! 確証はないけど俺の直感が何かある、と告げている…!」 悩んでいる時間はあまり無い。踏ん張るように腰を入れて上り道を進もうとする。 その時、ナオキは早々に自身の直感が当たっていた事を思い知る事となった。 「な、なんっ…!? うわぁ!」 ナオキのすぐ頭上の斜面に生えた茂みがガサガサと震えたかと思うと、突如として巨体を誇る謎の獣が襲いかかってきた! その圧倒的な重量でナオキの体を押し倒すと、肩に前脚の爪を引っ掛けながら、今にも食い付こうと牙を剥き…! ハッハッハッハッ…。 「…え?」 …むわっとする匂いの籠もった息と共に、ナオキの頬に唾液を垂らしてくる。 押し潰されそうなプレッシャーは感じるのだが(物理的な意味で)、この接触に攻撃する意志はないようだった。 「お待ちなさーいっ、シュガーちゃーん!」 ……! と、不意に山中に響く大きな声に反応し、ピクリと耳をたてて顔を上げると、そのままナオキの上からどいて右の道へと駆け出していってしまった。 ナオキがよろめきながら起き上がって、走り去る姿に目を向けると、毛並みに艶のある綺麗な白の体毛と尻尾が揺れていた。 「いてて…ありゃ大型犬だよな…。おわっ」 「見つけましたわ! 迷子にならないうちに早くお家にお戻りなさっ…きゃあ!?」 しかし、今度は声の主が降りてきたところに鉢合わせて、再び背中から地面に押し付けられた。 「ぐえー…一体何だって、俺の上に降ってくんのさー」 「あら、御免遊ばせ。でも、貴方が道端でお寝んねなさっていたからでしょう? 急に立ち上がって来られては、さしもの私も足元を掬われるというモノ…。 次はお気を付けた方が宜しくてよ」 ペコリと頭を下げた後、片足ずつ下ろすという緩慢な動作でナオキの上から離れる。 「いてて…なんて可愛気のねー奴…」 ナオキはズキズキする背骨を手で押さえたまま起き上がり、聞こえないように顔を俯かせながらボソッと呟いた。
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